はなすということ

 自分のことを話すのって恥ずかしくて、なんだか正直に本当のことを言えない。趣味、好きな食べ物、昨日なにをしていたか。こぼれ話の中に私という人格がぎっしり詰まっている。恥ずかしくて言えないこと、言いたくないこと、時には言葉すら見つからない。私は私を知られるのが怖い。つまらない考えを持つ私、言い訳なしには語れないような人生を歩んできた私を堂々と見せて、それでも離れないでいてくれるんだろうか。だから本当のことは言わない。恥ずかしいから。怖いから。当たり障りのないことを言って、やっぱりつまらなくてそのうえそっけない印象まで与えてしまう。違うんだよ私はあなたと親しくなりたいんだよ。でもそんなことは強要できない。私はいちいち重いんだな。一つの可能性に生死をかけているみたいだ。何かを話す機会って奇跡みたいなものだから、今の私には。だから可能性を繋ぎとめたい。ひとりでいなくてもよくなる可能性。誰かに認めてもらえる可能性。そんなものは私が口を開けば消えていくんだけどね。私の手元にある自信は頼りなくって、すなのしろみたいに風に吹き飛ばされていく。こんなことが重なって重なって、やっぱり抜け出せないんだろうなあ。