おもい目蓋

 思い出してべそをかく。一晩寝かせたらよりトゲが鋭利になったみたい。

 その場で言い返してしまったらよかったのかもしれないけれど、私は話すのが苦手で、まごついているうちにあの人に言葉尻を捉えられて勝手に違った解釈をされますますヒートアップしていたかもしれないことを思うと、これでよかった。でもあのあれに対して何も反応せず風呂に逃げたから、私は何も気にしていないと思われているのかもしれないしヘタしたら自分で言った言葉を忘れているのかもしれない。少なくとも言われて深く傷ついたことくらいは反応を示すべきだったのかもしれない。

 普段から言われている8割本気らしい冗談みたいな言葉が怖かった。信じられなかった。昨日のあれで嫌になった。全部消えればいい。ものごころのつくまえの、何も知らない幸せだったであろう遠い記憶まで捨てたくなった。

 もし逃げられたとしてもね、あの暗いみみっちい価値観は、私に根付いているんだよ。何年も傍で囁きつづけられたんだから。だから本当に逃げられるのは、ふっきれた時かしんだ時なんだよ。